「夜釣りに行こう」と宿のおじさんに誘われ、軽い気持ちで連れて行ってもらうことにした。
おじさん愛用のバンに乗り、エサの冷凍サンマを3匹、オリオンビールを3本買った。ポイントの近くまでは車で行き、その先は道なき道を歩いてゆく。大人3人に用意された懐中電灯はたったの1つ。真っ暗な山道をおじさんはサンダルでどんどん進んでゆく。
そしてやっとの思いでたどり着いたポイントは観光客では
決して足を踏み入れる事ができないような穴場中の穴場!
足元には男性的は岩場が広がり、波が戦闘機の様な音をたてて常に砕けている。そして頭上にはなんとも美しい無数の星達にやせ細った三日月が1つ。その合間を天の川がはしり、流れ星と人工衛星が夜空に動きをつけている。なんて贅沢な釣りだろうと思った。
この日の釣果はフエフキダイ。釣り上げた魚をおじさんが「さばいてくる」と言って懐中電灯片手に姿を消した。
ふと背後の山に目を向けると大きな山肌いっぱいに魚をさばくおじさんの姿が影絵のように映し出されていた。今まで、こんなに大きなスクリーンを見たことがない。懐中電灯の小さな光だけでおじさんは一瞬にして大魔人に変身してしまった。その姿はまるで沖縄の島にすむ妖怪のようでもあり、島々を守る神様のようでもあった。
さばいた魚を片手に戻ってきたおじさんの体は小さくなっていたけれど、海よりも山よりも大きく感じた。 |