陽春のある夜、私は東京の某百貨店を訪れていた。
目的は催事場で行われていた北国の物産展。
海産物と、チーズと、ソフトクリームと……。
数分後には手にしている名産品を思い笑みを浮かべながら、
迫る閉店時間を気にしつつ目的階へ向かっていた。
……はずだったのに。
ふと一枚のポスターが目に入ってしまった。
『沖縄の染織の世界』
気が着けば、告知の中に記されたフロアに立っていた。
北国に向かっていたはずが、南国へと進路変更していた。
まあいいや、予期せぬ出会いはいつも気まぐれから始まる。
歩みに身を任せ、爽やかな布が舞う一角にやってきた。
一足早い夏の香りが、その空間にだけ漂っていた。
南国の花鳥風月が、光を含んだ色で染め描かれた紅型
繊細な色糸の一本一本が、暖かな輝きを放つ読谷山花織
優しく強く世界を覆う夜のような、深い黒地の久米島紬
魔法使いが生み出したような、極限まで透き通った宮古上布
潮風を吸い込んだような、冴えた白の八重山上布
謎めいた模様が織り込まれた、ミンサー織の細帯
「沖縄の布」と一括りに受け入れることにためらいを覚える。
一枚一枚が静かに語りかけてくる気がしたのだ。
それぞれの布に染め織り込まれた、それぞれの物語。
なに色の空の下、どんな時が刻まれる中、
だれの想いがうみだした布なんだろう。
じっと向き合っていると、困り顔の店員さんの視線を感じた。
いつの間にか閉店時間が過ぎてしまっていたのだ。
名残惜しく思いつつ売り場を後にした瞬間、
背中を暖かい風に優しく押された気がした。
気まぐれが出会わせてくれた沖縄の染織。
もっと知りたい、そんな想いが日々強くなってしまった。
そうだ、布の故郷を訪ねてみよう。
布に会いにいこう。
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