美ら島物語
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那覇で乗り継ぎをして、東京から約4時間。石垣空港に降り立つと、もう島は夏のにおいがしていた。ムワッ〜と、くる。ジットリ、マッタリとした空気が、肌を包んでくる。「あー、来た。この感じだぁ…」沖縄の空港に降り立った時の、熱帯特有の空気の感じが、私は好きだ。吸い込む空気が湿気を帯びて、重みがある。妙に存在感のある、大気。「あー、南国に来たんだ」と実感する瞬間。これだけで顔がニヤけてしまう。
「えへへ、こっちは暖かいわよぉ〜」と、無性に誰かに電話したくなる。人はあたたかい所に来るとなぜ幸せな気分になるのだろう。

沖縄は、不思議な場所だ。その大地に降り立った瞬間に、何かのスイッチが入る。いや、ONになるのではなく、OFFになると言ったほうがいいのかも知れない。「人生は、勝負だ。私はどこまでいけるのか、東京は自分を試す闘いの場所だ」














私の背中には、「闘うスイッチ」なるモノが付いている。厳しい芸能界で生きていくために。負けないように。私の名前は安田美香。27歳、独身。大学生の時(いかにもありがちなパターンで笑ってしまうのだが)、渋谷のセンター街を歩いていたらスカウトされ芸能界入り。初仕事は忘れもしない、競艇のキャンペーンガール。今、振り返って考えてみると、若さとは恐ろしい。「水着姿で、とにかく笑って立ってて」と言い聞かされ、わけもわからず、ひたすらニコニコとしてきた。そして現在にいたる。私は、東京でこのニコニコを維持するために、流されないよう自分を奮い立たせるために、この「闘うスイッチ」を入れて戦闘モードにしている。そしてこのスイッチは私だけではなく、誰しもみんなの背中に付いている。

「ウイィィィ―――ン」
4度目の沖縄となる今回も、私の背中の「闘うスイッチ」は、ゆっくりと電源を落とした。沖縄は、そういう不思議な場所だ。知らず知らずのうちに背中にしょっていた、やっかいな荷物が落ちる。

すでに二ヘラニヘラしてしまったあたしはタクシーに乗り込み、港へ向かった。憧れの地、西表島へ渡るために、である。――西表。初めて西表を知ったのは、「天然記念物のイリオモテヤマネコを探せ!」とかいうTV番組だった。小学生だった私は、画面にクギづけになった。鬱蒼としたジャングルの中を、探検家がカヌーで分け入ってゆく。

ここが、同じ日本なの?別世界だぁ…。見たことないや、こんな風景…」それから、何度も夢に見た。私が「川口ヒロシ探検隊」(小学生の頃流行っていた冒険モノのTV番組)の一員になって、西表島を探検する夢を…。あの西表の光景は、子供の私には相当強烈だったらしい。

「なんで川に木が生えてんの?木って、山とか地面のあるとこに生えるもんじゃないの?」
TVの映像は、どう考えたって変なのだ。森の中なのに足元は水浸しで、探検家はカヌーに乗って進んでゆくのだ。水辺に生えている木、ではなくて、水のド真ん中に木がモリモリ生えているのだ。

何が何だかわからない私は、親にねだって“絵でわかる児童植物図鑑”を買ってもらった。ページをめくって探してみると、あの木々たちは「マングローブ」という名前で載っていた。

へぇー、不思議な木……。海や川に生えている木なんて、生まれてから1度も見たことないや。しかし彼女らは、はるか南の島にいるらしい。この目でマングローブを見てみたい、いつか行ってみたい。そう願ってから17年。今、私は西表へ向かおうとしている。
 



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