美ら島物語
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「ここから、支流のウタラ川に入ってゆきます」
川幅がグッっと狭くなり、今までの広大なパノラマから一転して、木に覆い囲まれるような景色に変わる。1人残らず根っこをむき出しにした木々は、川岸に枝を伸ばして、空を丸くおおっている。
「うわぁー、マングローブのトンネルだぁ」
空は葉で埋め尽くされ、流れを行く私たちをやさしく包んでくれるかのようだ。
「さあ、少し歩きましょうか。ここは昭和10年に作られた宇多良炭鉱の跡地です。足場がかなり悪いので気をつけてください」
少し歩くと、そこは『川口ヒロシ探検隊』の世界だった。薄暗く、ジットリとした湿り気が地面から上がってくる。土の香り。空は木々で覆われ、光はほとんど入らない。シダ植物が鬱蒼と生い茂り、恐竜の時代に迷い込んだ気分だ。
「これはサキシマスオウの木です。根が幹の基部からひだ状に肥大化して、幹に三角形の支持板を当てたようになってるでしょ?こういう平べったい根を“板根”と言います」
わ、本当だ。根っこが、きし麺。平たく、きし麺状態の根がヒラヒラと地上に現れている。とても優雅な感じ。金髪の森の妖精が、ハープかなんかを爪弾いていそうな雰囲気だ。このヒラヒラ感、吉祥天女の身体に巻きついている羽衣を連想させる。

そして、私は息をのんだ。

ょっと小さいけれど、
これがサキシマスオウの木 。
もっと大きいのもあるらしい!

こちらはガジュマルの木。
出た。この炭鉱の主だ。私の目の前には、大きな大きながじゅまるの木がそびえ立っていた。スゴイ。迫力。というか、圧迫感。怖い。
「がじゅまるは“絞め殺しの木”なんですよ。樹上で発芽生長する能力を持っていて、ひげ状の根を伸ばし絡ませ、宿主を枯らしてしまうんです。繁殖力が非常に強い木です」
“非情”に強い木、の間違いじゃないの?元々生えていた木を殺しちゃうなんて、と思わず言い返したくなる心を抑え、がじゅまるに触れてみる。
クネクネと複雑に絡みつき、宿主に巣食っている。なんだか色っぽささえ感じさせる。
ブルッ。
がじゅまるがニヤッと笑った気がして、私は一気に身の毛がよだった。怖い。がじゅまるは、私の中にも、いる。人に巣食って、乗っ取って、他人を利用してしまおうという気持ちが、私の心の奥底にもきっと在る。そんな自分の卑しい部分と対面してしまったような気分。
でも、がじゅまるは堂々と凛として立っている。美しい。だからこそ、余計美しいのだ。これが厳しい大自然を生き抜くということなのか。
フリーズしてしまった私の背中を、関さんが押してくれる。
「ここが、工場の跡です。あっちが宿舎で、トイレの跡なんかも残っています。これは何だと思います?冷蔵庫の跡です。ここに氷を運んできて積み上げて使っていたようです。すごい原始的ですよね」

「ここがお風呂。ひどいですよね、1,000人もの炭鉱夫が、こんな狭い風呂を使っていたんですよ。“映画館などの娯楽施設が備わった近代的な炭鉱”という売り文句で、日本中から人夫が集まってきたんですが実情はひどいもので、彼らは24時間監視され、過酷な労働を強いられたのです。マラリアにかかったり、逃亡を試みて拷問かけられたりと、多くの人夫が犠牲になったそうです」
朽ち果てた炭鉱の跡は、森の中にひっそりと息を潜めていた。むき出しになったコンクリートの台座が虚しく残っているだけ。よく見ると、コンクリートを突き破って、その間から草が生えているのを見つけた。ジャングルの木々はそんなこともたくましい。人間が去った跡にも、お構いなしに生い茂っている。
文明は消えても、自然は死なないのだ、と痛感する。大自然の中で、人間の力は小さい。人は自然の中の1部分にすぎないのだ。文明の力で石炭だけ奪い取ろうとするなんて、違う気がする。

人は自然と仲良くして、“搾取”するのではなく、“おすそ分け”してもらうんですよね、きっと」
すると関さんが「そうです。それがエコツーリズムの精神なんですよ。“バーミィートーリヨウ(私の分を分けて下さい)”と言って、自然の許しを得てから採取するのが、島人の昔からの習わしです」と笑った。
  (2001.06.21掲載)



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