「マングローブに会いたい」という長年の希望をかなえるために計画した今回の旅であるが、実はこの旅にはもう1つの目的があった。“イノシシ”だ。1月前にプランをたてている時、今回の旅をコーディネートしてくれた小浜さんが、いきなりスックと立ち上がった。
「そうだ、安田さん!“カマイ”ですよ。西表でカマイ(リュウキュウイノシシ)、食べましょう!」
「イ、イノシシですか?マ、マジですか?あのー、あたしクセのあるお肉はちょっと…」「大丈夫、西表のイノシシは刺身で食べられるほど美味しいんですよ」
「へぇー、イノシシの刺身?それはちょっと味見してみたいような…」
「決まりですね。じゃあ、赤ワインを持っていきましょう。絶対合うと思うんですよ、赤と」
「え?えっ?」
…ってな感じで話は盛り上がり、カマイ&赤ワインディナーは、現実のものとなった。
「ゴロゴロ――、ゴロゴロ―――、安田さん、おはようございます。さ、出かけましょう、ゴロゴロ――、ゴロゴロ―――」
那覇空港で待ち合わせした小浜さんは、2泊3日の旅とは思えないほど大きなスーツケースを転がしながらやって来た。
「ワインは赤を4本、持ってきました。赤はイノシシなどのジビエに合うワインですから、必ずマッチしてくれると思うんですよ。僕はヨーロッパに旅行に行くと、必ずワインを10本抱えて帰ってくるんです。この4本も、向こうで買ってきたお土産です。僕は他に贅沢はしないけれど、ワインだけはやめられないんです。楽しいですよ、ワインは」
とニコニコ話す小浜さん。その顔を見ていれば、楽しいのは充分伝わってますって。
「ワクワクしますね。今日の夕食、楽しみにしていて下さい。そして3日間、西表を満喫しましょうね」
そう笑って、沖縄出身の小浜さんは、沖縄独特の顔を輝かせた。島の人は、顔に、力があるのだ。なぁーんか、こっちまでワクワクしてきた。こうなりゃ、イノシシでも、矢でも鉄砲でも何でも来いっつーの。だいたい、私は食わず嫌いのところがあって、それがよくないのだ。小浜さんの、“旅を楽しみましょう!”という熱意の前に、私は、「食べる前から苦手だと決めてかかっていた私って、すごい損してる!」と気がついたのだった。何でもやってみて、それから考えりゃイイのだ。旅をすると、その土地の人が心を尽くしていろいろと親切にしてくれる。東京でボロキレの様に働き、息抜きに来た旅行者にとって、こんなに心に染みるものはない。