美ら島物語
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宇宙からの使者、ジャングルに生きるヒカゲヘゴ

急な階段が続く。息が上がる。「ふぅ、ふぅーっ」 すると、階段の向こうに展望台が見えてきた。なんとか登り終えると、おおっ、見えた!あれがマリユドゥの滝だ。“マリの言語はマーリ=廻ること”で、滝壷に落ちた水が丸く廻ることから、この名がついたらしい。ユドゥ=淀みを組み合わせて、“丸い淀み”という意味だという。

展望台からさらに10分歩くと滝のすぐそばまで行けるというので、私たちは再び歩き始めた。
「今日はあんまりしゃべらないんですね、安田さん。どうしたんですか?あ、体調悪いですか?」
「あ……いえ、なんとなく…。大丈夫です」
……そういえば、歩き始めてから、私、あんまりしゃべっていない。西表に来てから毎日、キャーキャー!ワーワー!泣いたり笑ったり大騒ぎなのに、森の中を歩き始めたら自然に口数が減っている。自分でも不思議だ。
んー、なんだか、しゃべろうという気が起きないのだ。歩いている間は絶えず鳥の歌が聴こえてくるから、それに耳を傾けていると自然に無口になる。ジーッっと聴いていると、声の高い鳥、低い鳥などそれぞれが微妙に違っていて、ハモったり、追いかけ合ったり、みんなでセッションしているように聴こえてくるのだ。
道は常に渓流づたいにあるため、「サァワサァワサァワ―――」という川のせせらぐ音も、絶えることはない。

“森林浴”っていうけど、まさに何かイイ成分を浴びている気がする。私は、無言でニヘラニヘラ笑いながら、おだやかで、自然に心が“受け身”にまわっている自分に気がついた。心の中の、肩肘張った、攻撃的な部分がポロポロと剥がれ落ちてゆく。
満たされている。見上げると、ある1本のヒカゲヘゴと目が合った。

こっちを、見ている。
しかし、ヒカゲヘゴはそれ以上、何をしてくるワケでもなく、ただ、そこに居た。何を押し付けてくるワケでもなく、訴えかけるワケでもなく、ただ淡々とそこに在って、こっちを見ていた。
私も、ただ真っ直ぐに、ツルンとしてそこに立っていた。ジャングルの森の中で、私は何も持っていなかった。

この瞬間、私はヒカゲヘゴになっていた。

ものすごい、癒しのパワー。うれしさと悲しさがいっぺんに押し寄せ、グチャグチャになって、泣きそうな気持ちになる。目的は、シンプル。ただ、生きてゆくこと。
デキる女になりたくて、良かれと思って必死に身に付けて、いつのまにかそれが重たくなって、動けなくなって。夢中で駆け抜けてきたけど、今さらゼロに戻す方法なんて、知らない。でも、西表の森は圧倒的な包容力で、知らぬ間に背負い込んだ荷物を降ろさせてくれる。
自然は、ものスゴイ。人間は小さい。私はアホだなー。そう思いながら歩いてゆくと、ついにマリユドゥの滝に出た。



「うわぁ―――…」
豊かな水量をたたえて流れ落ちるマリユドゥの滝は、雄大で思わず見入ってしまう。落差は少ないのだが、滝の幅が広く、3段に分かれて流れ落ちる姿は迫力たっぷり。風景が、横長の世界だ。ゆったりとした流れに、ただただ見とれてしまう。日本の滝100選に選ばれているのも、納得だ。

18世紀、与那田橋の改築という任務を受けて西表にやってきた山陽氏の宮良長休は、マリユドゥの滝のあまりの美しさに感動し、絵に描き写して琉球王府に献上したという話が残されているが、思わず画を書いたそのお役人の気持ちがわかる気がする。今も昔も、美しいモノは、美しいのだ。
「ふぅ――――…」
滝の流れに触れてみる。
なんだか、身体が軽い。心が軽い。
私は、マリユドゥの滝と一緒に、カチャーシーを踊った。



 
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