|

備瀬(びせ)集落のフクギ並木
琉球石灰岩の石を積み上げた塀の周りに、ぽってりした艶やかな葉を繁らせながら空へと伸びるフクギが防風林として植えられている。白砂が敷かれた小道に朝の陽射が射し込んで、地面には縞模様のシルエット。小道を歩けば、畑が見えたり、洗濯物が干されていたり、漁具が置かれていたりと生活の匂いが湧き立つ。
母とふたりでのんびり歩く。海岸へ出た。白い砂、珊瑚礁の海。
岸壁に母と並ぶと、ふたりの影が砂に伸びた。私の影の方が横も縦も長さがある。母と娘の関係はこれからもずっと変わらないけれど、同時に女同士という関係も出来つつあるのかなと思った。
波打つ城壁にうっとり
世界歴史遺産 今帰仁城(なきじんぐすく)跡
駐車場に車を停め、外へ出ると宇宙っぽい反響音の洪水にのまれた。
「蝉かなあ?」
母と顔を見合すが、今は11月の初旬。しかも、耳に流れ込んでくる音は、言葉で表現し難い地球離れした音。周辺の木々に蝉の姿を探す私をよそに、今帰仁城への入口にある小さな受付で母が切符を買ってきた。
「セミですって」と言いながら、戻ってきた母がいたずらっぽく笑っている。なんでも受付で、声の主を訊ねたら、これですって指差されたのが虫かごで、そこには『オオシマゼミ 11月から3月』と書かれていたと言う。
「中に入っているから」と言いながら、受付のおばさんが籠に目をやった。
「あら、いない」
おばさんはとても不思議そうにしていたと、ここまでの成り行きを母は私に話した。
「きっと来る人みんなに聞かれるから、ああゆう風にしたのね」とやはりおかしそうにしている。
私は今帰仁城が大好きだ。海へと続く高台にあるこの城は、南国の海と生い茂る濃緑色の森の中にたたずむ石の城跡。古生期の石灰岩を積み上げた波うつ城壁は、少しずつ森の勢力に飲み込まれつつある。繁みからのぞく白い岩肌が美しい。
駐車場へ戻る途中、受付のおばさんが補虫網を持って、返り咲きした桃色の緋寒桜の前でセミを探していた。
「そうやって籠に入れておくと、分かりやすくていいですね」と彼女に話しかけると、
「こうしておかないと、朝から晩までセミセミセミ」
と真顔で言った。でも、目の奥がきらりと笑っている。
母とおばさんはそのまましばらく立ち話しをしていた。
|