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文・森山 卓


vol.44 目と心で飲む美酒 30年前に買った花酒

美ら島物語の読者さまから1通のメールが届いた。
30年前の新婚旅行で沖縄を訪れた際に買った与那国の花酒60度があるのだけれど、これ飲めますかね?という質問だった。

もちろん、現物を拝見しているわけではないので、推測でしかありませんとお断りした上で、目減りしていたら残念ながらお酒ではなくなっているはずだけど、封がしっかりしていれば(お酒が極端な減り方をしていなければ)飲めると思います。ただし、古酒にはなっていないかもしれませんよと、お返事を送った。

はー? 泡盛30年も寝かせているんだから、おいしい古酒になってるんじゃない? あんた書いてたさー?って思われた方もおいででしょう。でも実は一般的に花酒(60度)は寝かせておいても古酒になりにくいといわれているのです。

なぜ?
もろみを蒸留すると初期と中期、後期では度数も成分も少しずつ違ってくる。蒸留開始直後に流れ出てくるのは度数80度〜60度の強いお酒。
これを業界では花酒と呼んでいる。この部分は、香りがとてもいい部分なのだが、熟成に必要な成分があまり含まれないため、寝かせても年数分の熟成が見られないといわれている。

ただ、与那国の入波平酒造ではいろいろと研究を重ねて、60度の花酒を熟成させる技術を確立し、商品化しているので、花酒の古酒がないわけではありません。

さて、質問にお返事を送ったら読者様からお便りが届いた。

「新婚旅行の思い出なのでやはり飲むのはやめて、そのままにしておきます」と書いてあった。

いつか飲もうと思いつつ、時は流れていく。たまに、ふと思い出すけれど、もったいなくて開けられない。そうやって思い出がいっぱい詰まった1本を持ち続けることにも、大きな意味があるのかもしれませんね。楽しいときも、苦しいときもいつも見守ってくれた1本。例え飲めようが飲めまいが、封を切らずに花酒として持ち続けることで、時を振り返ることができる。
開かずの1本、これは目と心で飲む最高の美酒かもしれません。

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